2019/01/28 (2019年01月 のアーカイブ)
MIDI 2.0 の件
さて、例年どおり開催された世界最大の楽器ショー NAMM 関係のニュースもほぼ出そろったようです。
島村楽器さんの記事とかRockOnさんの記事はまとまっていて読みやすいですね。見れば大体どんなものが出てきたかがわかりますが、気になるものはあったでしょうか?
私としては Teenage Engineering のモジュラー組み立てキットとか気になりますが。
そしてもうひとつ NAMM の直前くらいからニュースが流れていた「MIDI 2.0」の話。38 年ぶりに MIDI の規格がバージョンアップするという事です。といっても、「今やってます、名前は決めました」というニュースなので、これを搭載した製品が出てくるにはもう少しかかると思いますが、NAMM ではプロトタイプのデモなども行われたようです。
MIDI-CI
MIDI 2.0 に先立って昨年「MIDI-CI (MIDI Capability Inquiry)」という規格を作っているというニュースが流れていましたが、これとの関係としては MIDI-CI は MIDI 2.0 の一部として入口部分にあたるものになっています。下の図が MMA のサイトなどで公開されていますが、MIDI デバイスはまず MIDI-CI によってお互いにネゴシエーションを行い、MIDI 2.0 に対応している場合はそれを使って更に設定などの情報をやり取りする、対応していない場合は今まで通りの MIDI 1.0 デバイスとして接続する、という事を表しています。
MIDI 2.0 の基本的なコンセプトとして、3つの「B」と3つの「P」なるものがあります。
3つの「B」の1つが「双方向 (Bi-Directional)」です。今までの MIDI が一方通行で送りっぱなし、送ったメッセージが届いたかどうか、そもそも送り先にデバイスが存在しているかどうかがわからなかったのに対して、MIDI 2.0 では相手のデバイスとの間で双方向のやり取りをする事になっています。そして2つ目の「B」が「下位互換 (Backward Compatible」、つまり MIDI 1.0 の機器を繋いでもちゃんと動作する事。まあ、これを大事にしていたから MIDI はここまで生き残れてきたので当然の戦略ですね。
そして3つ目が「両方やる (Both)」。新しい MIDI 2.0 部分だけ作って MIDI 1.0 部分は手付かずというわけではなく、MIDI 1.0 相当部分にも可能な改善は加えていくという意味のようです。
そして双方向通信を使ってお互いが MIDI 2.0 に対応しているかどうかというネゴシエーション以降になる 3 つの「P」の部分が「プロファイル・コンフィグレーション (Profile Configuration)」「プロパティ・エクスチェンジ (Property Exchange)」そして「プロトコル・ネゴシエーション (Protocol Negotiation)」ですね。
プロファイルは自分が何の機器であるかを端的に表す属性を示すもので、自分は「オルガン」だよ、とか「アナログシンセ」だよ、という風に宣言する事で例えば「オルガン」ならドローバーの設定などを共有したりできるようにするというものです。
そしてプロパティエクスチェンジは、どんなパラメータを持っているかの詳細をやり取りするもので、今までの MIDI 機器でいえば、繋ぐ機器に応じたMIDI コントローラのセットアップとか、MIDI デバイスの MIDI ラーンの機能を自動化する事を目的としています。なおこれは、MIDI-PE と略される事はあるみたいですが、MPE だと MIDI Polyphonic Expression の略で、後述する ROLI の Seaboard なんかがサポートしている ノート毎のアーティキュレーションを指す機能の事になります。ちょっとややこしい。
3つ目のプロトコル・ネゴシエーションはこの双方向通信によって MIDI 1.0 デバイスと MIDI 2.0 デバイスを振り分ける仕組み自体をさしています。
ボイスメッセージ関係
ここまでは、MIDI-CI の周辺になる双方向関係の部分ですが、今回のニュースでは今までの MIDI の不満点として良く言われるベロシティのレゾリューションの不足への対応やチャンネルの増設などにも触れられています。
1 本のケーブルで 16 チャンネルに対応するというのが MIDI 1.0 の規格でしたが MIDI 2.0 では、1 本のデータのストリーム内に MIDI 1.0 または 2.0 として使用できる 16 個のグループがあり、各グループが 16 チャンネルを持っている、つまりトータル 256 チャンネルという事になります。
Group | |||||||||||||||
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 |
MIDI 1.0 | MIDI 2.0 | MIDI 2.0 | MIDI 1.0 | MIDI 1.0 | MIDI 2.0 | MIDI 2.0 | MIDI 2.0 | MIDI 1.0 | MIDI 2.0 | MIDI 2.0 | MIDI 2.0 | MIDI 2.0 | MIDI 1.0 | MIDI 1.0 | MIDI 1.0 |
ベロシティやコントロールチェンジのレゾリューションも拡張されて軒並み上がってますね。これらは MIDI 1.0 にも相当する機能が存在していますが、レゾリューションが拡張されています。記憶ではたしか MIDI 1.0 でも高精度ベロシティプリフィックス (14bit) とか一応あったと思うのですが、全然使われてなかったようです。
MIDI 1.0 | MIDI 2.0 |
---|---|
ベロシティ 7bit | ベロシティ 16bit |
ポリ・チャンネルプレッシャー/ピッチベンド 7bit | ポリ・チャンネルプレッシャー/ピッチベンド 32bit | 16384 RPN (14bit) 16384 NRPN (14bit) | 16384 レジスタードコントローラ (32ビット) 16384 アサイナブルコントローラ (32ビット) |
128コントロールチェンジ (7bit) | 128 コントロールチェンジ (32bit) |
そして MIDI 1.0 とは互換の無い形で新規に追加されるメッセージもあります。8bit の型と 16bit のデータを持つアーティキュレーション情報、256 種のレジスタードコントローラと 256 種のアサイナブルコントローラ。今までのコントロールチェンジがチャンネル毎にまとめて対応なのに対して、これらはノートの 1 音 1 音毎に対応するもので、「5 次元キーボード」という触れ込みで話題だった ROLI の Seaboard がサポートしている MPE に相当するもの、VST で言えば Note Expression のようなものになると思います。
MIDI 2.0 Messages |
---|
アーティキュレーション タイプ (8bit) データ(16bit) |
256 拡張レゾリューション・レジスタードコントローラ (32bit) 256 拡張レゾリューション・アサイナブルコントローラ 拡張レゾリューション・パーノート・ピッチベンド (32bit) |
これだけのものを規格としてまとめるのはなかなか大変そうです。流石に 38 年経って古いといわれる MIDI 規格ですが、MIDI 2.0 も長く使える規格になって欲しいですね。
Posted by g200kg : 2019/01/28 14:17:03