2021/12/05 (2021年12月 のアーカイブ)
耳の話
聴力テストを作ったりしたので、ちょっと耳系の話も書いてみます。
人間が音を感じるセンサーになる部分は耳の奥、内耳にある蝸牛と呼ばれる器官です。なんとなくイラストを見たりした事があるかも知れませんがあのカタツムリみたいな奴、乗り物酔いの原因にもなる有名な三半規管とくっついている奴ですね。
鼓膜からの振動はこの蝸牛に伝えられるわけですがそこには数万個の有毛細胞があり、その内の3500個程度が内有毛細胞というもので機械的な振動に反応するようになっています。そしてそれぞれの内有毛細胞は特定の周波数と共振してここで周波数分析が行われます。これは言わば物理的なフィルタバンク、凄いですね。そして内有毛細胞からの信号はそのまま全部パラレル(!)に脳のニューラルネットに送り込まれるわけです。人間は音程には敏感だけど位相は殆ど認識できないというのはこういう構造で脳への入力信号がそもそも周波数毎のマグニチュードしかなくて位相情報が取れていないからなんでしょうね。
数万個の有毛細胞の内、振動に反応する内有毛細胞が3500個程度、すると残りの外有毛細胞と言われる部分は何なのかというと、この辺はまだ完全に動作が解明されていないらしいのだけど、どうやらセンサーではなくモーターらしいという興味深い事がわかっているようです。つまり刺激を受けて脳に信号を送るのではなく、信号を受けて能動的に動く。しかも音声信号レベルで高速に動いて自ら音を発している!! なんと!!
つまり耳が音を聴いていると思ったら耳から音が出ている!
このセンサーとモーターが組み合わさってどうやら信号の非線形な増幅装置が構成されているというのが定説となっています。このため、単体で摘出された蝸牛で何が起こっているのか確認しようと実験してもどう考えてもマイクとしての感度が低すぎる。生体の中でのみ稼働するアクティブセンサーらしいのです。
この耳から出てくる音は耳音響放射と言い、実際に耳に音を入力した時に耳から出てくる音を測定して内耳の機能検査などで使用されています。
人間の耳が音の大きさに対して対数的に反応し、ぎりぎり聴こえるかすかな音からジェット機の爆音まで120dBの幅の大きさの音に対応できるのはこのアクティブ機構があるからのようです。
凄すぎるだろ、耳。
Posted by g200kg : 2021/12/05 17:51:14